愛憎のポケットWi-Fiルーター

 

男は、バンドマンで、ベーシストだった。

ライブで知り合ったファンの女と交際していた。

 

女は、前髪パッツンで、メンヘラだった。

夏でも黒い長袖を着ていた。

 

 

男は、交際が始まって1ヶ月の日に、女へのプレゼントにレザーのチョーカーを贈った。

女は、それをとても気に入り、風呂に入る時以外はずっと着用していた。

 

女は、5年前から自傷癖があり、腕には傷跡が多くあった。

男は、それを受け入れ、愛したように振る舞った。曲も作った。

 

 

男は、しばしば浮気をした。

ファンの女を取っ替え引っ替えした。

 

女は、それを受け入れられなかった。

自身との交際もファン抱きから始まったものであったが、特別な存在になりたかった。

 

 

男は、夢を追っていた。

女は、夢を応援していた。

男は、女に寄生していた。

女は、ガールズバーで働いていた。

 

男は、携帯代を女に払ってもらっていた。

女は、ポケットWi-Fiルーターを契約していた。

男は、女のポケットWi-Fiルーターに、自動で接続されるように設定していた。

女は、自分のポケットWi-Fiルーターのネットワーク名を、男と女のイニシャルと、交際記念日を組み替えた名前に設定していた。

 

 

男は、ライブ終わりに、ファンの女の家へ向かっていた。

女は、後をつけていた。

男は、スマホWi-Fiに自動接続されたのを見て、後をつけられていることを確信した。

女は、男の愛を、試していた。

 

 

 

そして

女は、自殺した。

 

男のスマホは、いまだに、あのWi-Fiに自動接続されるという。